2016年1月11日月曜日

ランゲルハンス島の午後

  今日は成人の日。村上春樹の短編小説に「バースデイ・ガール」という作品がある。中学3年生の国語の教科書(教育出版)にも載っているので、成人となった方の中にはこれを読んで勉強した記憶がある人も多いのでは。
 20歳の誕生日を迎えた女の子に、アルバイト先のちょっと秘密めいたオーナーがひとつだけ願いごとをかなえてあげると言ってくれる。小説の中では彼女がその時何を願ったのかは明らかにされず、それが本当にかなったのか、それを願ったことを後悔していないのかなど、自分だったらどうしただろうかと色々考えさせられてしまう。そして新成人の皆さんは、どんな願い事をするのか。そんな村上春樹の誕生日は明日、1月12日。

 村上春樹のエッセイに ランゲルハンス島の午後 という、一風変わったタイトルのものがある。女性誌CLASSYに連載された作品をまとめたもので、安西水丸が絵を描いていて、ちょっと絵本のような仕上がりになっている。この本のために書き下ろされた作品「ランゲルハンス島の午後」はこのエッセイの最後に載っている。

 生物の教科書を忘れた中学1年生の男の子が、走って家に帰って教科書を取り、もう一度学校に戻る途中でちょっと休憩してしまう話。

 「ぽかぽかとした」という形容がぴったりする、まるで心がゆるんで溶けてしまいそうなくらい気持ちの良い春の午後で、あたりを見まわすと、何もかもが地表からニ、三センチぽっかりと浮かびあがっているみたいに見えた。僕は一息ついて汗を拭き、川岸の芝生に寝転んで空を眺めた。ずいぶん走ったんだもの、五、六分休んだってかまやしないだろう。      
ランゲルハンス島の午後(新潮文庫) 村上春樹/著 


                                                      
  なぜ村上春樹はこのエッセイ集に「ランゲルハンス島の午後」と名付けたのだろう。ランゲルハンス島の午後は、心がゆるんでしまいそうなくらい気持ちのよい時間らしい。そこは天国に一番近い島、ニューカレドニアではなく、地図にはのっていない島。ランゲルハンス島は私たちの体の中、膵臓に存在する島。膵臓の組織を顕微鏡でのぞくと、ぽつりぽつりとまるで広い海に小さな島が浮かんでいるかのように見えるものがあり、それがランゲルハンス島だ。

 ランゲルハンス島のβ細胞からはインスリンが分泌される。年末年始の食べ過ぎで、大忙しだったランゲルハンス島は、そろそろ午後の一休みを求めているのかもしれない。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿